2. 二次障害

頚髄損傷では、さまざまな二次障害が生じるリスクがあります。
二次障害には褥瘡や、自律神経系の機能障害、麻痺域の筋肉がけいれんする痙性などがありますが、褥瘡のように予防することができるものもあれば、体温調節障害のように対策を講じる必要のあるものもあり、しくみを知ることが重要になります。

自律神経過反射

自律神経過反射は痛みや熱や圧迫といった刺激が麻痺域にあることが引き金となり、発汗や顔面の紅潮、頭痛、鳥肌、そして血圧の急激な上昇を引き起こす自律神経(交感神経)の過剰な活動です。
自律神経過反射は、通常であれば脳から脊髄を介して伝えられる指令が損傷部以下には届かないため、放置していても治まりません。原因を特定し取り除く必要があります。

機序

麻痺域での何らかの刺激が原因となって、血管、汗腺、立毛筋を司る交感神経が働き、血管が反射的に収縮します。その結果、血圧は上昇し、発汗、鳥肌といった症状があらわれます。
脳は血圧を下げるために血管を拡張しようと指令を出しますが、損傷部より下には脳からの指令は届かず血管は収縮したままです。しかしながら、損傷部より上(非麻痺域)では血管は拡張し、顔面が紅潮し、血圧は上昇したままの状態が続きます。
外傷による痛みや皮膚の圧迫、あるいはカテーテルがつまり膀胱に過度な圧力がかかっているなどの原因である刺激を取り除くと治まりますが、放置すると脳出血のリスクを伴う危険な状態が続きます。

頚髄損傷ではすべての交感神経が麻痺しているため、自律神経過反射でみられる症状が受傷前のように(正常な反応として)あらわれることはありません。したがって、発汗や鳥肌、血圧の上昇などの症状がある場合は自律神経過反射を疑い、原因を取り除くことが必要となります。
一方で自律神経過反射には、その症状を利用して代償尿意(便意)としたり、身体の異常を報せるある種のセンサーとして活用するといった利点もあります。

自律神経過反射の機序 自律神経過反射

自律神経過反射の機序 自律神経過反射

起立性低血圧

頚髄損傷では交感神経がすべて麻痺しているため、麻痺域の血管の収縮はおこらず弛緩しています。さらに心臓も副交感神経優位となり、脈が遅く(徐脈)なります。そのため急に起き上がると麻痺域に血液が貯まり、循環する血液の量が減り低血圧となりやすく、ひどい場合は脳貧血を起こし失神することもあります。このような、起き上がったときに生じる過度な血圧の低下を起立性低血圧といいます。
起立性低血圧が不安な場合は、血圧を測りながらゆっくりと身体を起こし、急な血圧の変化に注意する必要があります。
めまいや息切れ、意識がもうろうとする場合はすぐに横になります。車いす上での対処法としては、車いすごと後ろに倒れるか、前傾姿勢を取り、頭を低くします。

起立性低血圧

起立性低血圧

体温調節障害

体温は、おもに血管の収縮と汗による調節が自律的に行われることで、外気温に関わらず一定に保たれています。
暑い時は発汗による気化熱と、皮膚の血管を弛緩させ体表面の血流を多くすることで、熱を体の外へ逃がします。逆に寒い時は血管を収縮させ、体表面の血流を少なくし、熱が外へ逃げないようにします。
胸髄上位以上の損傷では、発汗が失われているため、気温が高く暑い時は体に熱がこもります。一方で気温が低く寒い時は、麻痺域では血管の収縮はなく、皮膚の血流が減らないため熱を逃してしまいます。

頚髄損傷者は自律的な体温調節が不可能なため、高温時は冷房を使い、腋や鼠径部、あるいは頸部の動脈をタオルなどで包んだアイスノンで冷やすことや、十分な水分摂取をするなどし熱がこもらないようにします。低温時は暖房器具やカイロを利用するなどの対応が必要になりますが、麻痺域のやけど、低温やけどには十分注意します。

体温調節障害

体温調節障害

痙性

ある刺激(入力)に対して脳を介さず脊髄内で出力を返すことを脊髄反射といい、入力から出力までの経路を反射弓といいます。脊髄の反射弓は通常、脳に制御されています。
脊髄を損傷してしばらくすると麻痺域の筋肉の緊張が高まり、通常とは異なる反射弓があらわれることがあります。痙性は、脳の制御を失った脊髄反射で引き起こされる制御不能な麻痺域の筋肉の収縮です。
皮膚や筋肉、内臓への刺激や、特定の姿勢をとることが引き金となり、腹筋が強く収縮したり、下肢が引っ張られるように伸びたり、股関節と膝が強く屈曲したりします。
痙性は、すり傷や打撲といった外傷や、落車の原因となることがありますが、普段動かすことのできない麻痺域の筋肉が収縮することによって、筋肉の量や骨の強度が維持されることや、移乗の際にこれを利用する、あるいは身体に異常があることを報せる警報器となり得るといったメリットもあります。
痙性の誘因としては、褥瘡、膀胱炎、尿路感染、便秘、骨折、巻き爪、あるいは天候があげられます。 日常生活に支障をきたすほど痙性が強い場合は、薬物療法や外科的な治療を検討する必要があります。

腱反射 腱反射

腱反射 腱反射

褥瘡

皮膚にずれや圧迫が加えられることで血流が滞り、その状態が続くことで皮膚と骨の間の軟部組織が壊死することを褥瘡といいます。ひどい場合は骨まで達することもあります。
脊髄損傷では、損傷個所以下の感覚が麻痺しているので褥瘡ができやすい状態にあっても気づきにくく、また運動麻痺のために寝返りが打てない、除圧ができない、さらには麻痺域の血流が低下しているためになりやすいといわれています。一度褥瘡になってしまうと治るまで人手と時間がかかるため、精神的にも経済的にも負担となります。
体のなかでも特に骨の出っ張ったところは圧力がかかりやすく、皮膚も薄いため、こうしたところに圧力がかかる場合は、頻繁に除圧をすることを心がけ、皮膚を清潔に保ち、かぶれや赤くなっていないか目視で確認をするなど、日頃から気をつけることが重要です。

褥瘡になりやすいところ

褥瘡になりやすいところ

参考文献