5. 日常生活

日常生活での動作の自立度が高まると、その分、介助者の負担が減ります。加えて住宅改修や自身にあった福祉用具や自助具を使用することで、より多くのことができるようになることがあります。
受傷後は、状態が安定したらできるだけ早期にリハビリテーションを開始するのが望ましいとされています。病院や専門のリハビリ施設で訓練をし、残存機能を活かした動作を身につけ、住宅改修や電動ベッド、マットレス、車いすといった環境を整える必要があります。

日常生活動作(ADL)

頚髄の損傷レベルによって日常生活での動作の獲得目標は異なります。
リハビリテーションを通じて、移乗や食事や排せつ、入浴などの実際に日常生活で行う動作を獲得していくことになります。

頚髄損傷者のレベル別日常生活動作例
C3 すべて介助、人工呼吸器
C4 ほぼすべて介助、一部食事など装具を使用して可能、電動車いす(顎で操作)
C5 補助具を使っての食事、移乗、パソコン操作。整容、電動車いす
C6 更衣、食事、移乗、自己導尿、自動車運転、入浴、トイレ自立も可能
C7 ほとんどで自立、車いす自操
C8 自立
(参考:二瓶隆一, 他・編:頸髄損傷のリハビリテーション 改訂第3版.協同医書出版社, 2016,p110)
(参考:慶應義塾大学病院リハビリテーション科."脊髄損傷のリハビリテーション".慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト.2018.http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000159.html)

リハビリテーション

頚髄損傷者の動作は坐位で行うことが基本となります。そのためには上肢に筋力をつける、体幹のバランスを養う、また動作を阻害するようであれば関節可動域を広げる必要があります。
腕の力をつかって上体を持ち上げるプッシュアップ動作ができれば、平面での移動が可能となります。車いすとベッドとの間の移乗(乗り移り)ができると行動範囲はより広がります。更衣(着替え)ができるようになるとトイレや入浴の自立の可能性が見えてきます。
また指が動かないのであれば万能カフやリーチャー、座薬挿入器などの自助具を利用したり、衣類に輪っかを縫いつけるなどの工夫をすることによって自立度が高まることがあります。
リハビリテーションでは、日常生活での動作を専門のセラピストと実際に行うことで体得していきます。できることとできないことが判ると今後の生活設計が可能となり、住環境の整備も具体的に計画することができるようになります。

自助具の例 万能カフ・リーチャー・オープナーその他の自助具

自助具の例 万能カフ・リーチャー・オープナーその他の自助具

高床式での動作・直角移乗 高床式での動作・直角移乗

高床式での動作・直角移乗 高床式での動作・直角移乗

住宅改修

頚髄損傷者は胸髄以下の損傷者と比して、損傷レベルによってADLが大きく異なります。トイレや浴室、玄関などを残存機能が活かせるよう改修することによって、日常生活における自立度が高まり、介助者の負担を減らすことができます。
住宅改修には、数センチの誤差でできることができなくなるということが起こりうるため、日常生活での各シーンにおける具体的な動作の把握が不可欠です。同居者がいる場合は、同居者の生活動線も考慮したうえで、改修工事をするのか、福祉用具を設置するのかなどの見極めも必要になります。

Zancolli の上肢機能分類による動作
レベル 動作の説明
C5A 肘を曲げる力が弱い
C5B 肘を曲げる力が強い
C6A 手首を反らすことができるが弱い
C6B1 手首を反らす力が強い
C6B2 手首を反らす力が強い、かつ前腕を内側にひねる力が強い
C6B3 手首を反らす力が強い、かつ手首を内側に曲げる力と肘を伸ばす力が強い
C7A 小指側の指が伸ばせる
C7B すべての指が伸ばせる
C8A 小指側の指が曲げられる
C8B すべての指が曲げられる
(参考:別府重度障害者センター作業療法部門."頚髄損傷者の住まいの工夫改訂第2版".別府重度障害者センター.2021.http://www.rehab.go.jp/beppu/home/pdf/08.pdf.p4より改変)
機能別住環境整備例
C4 全介護プランとなる。電動車椅子の使用が条件となる場合が多いため、プローチ・玄関はスロープや段差解消機などの設置により移動は可能となる(広さの確保も条件)。扉を自動ドアにした例もある。排便ではベッド上排便になることが多いが、トイレチェアの使用、入浴ではリクライニング式のシャワーキャリーを使用する場合もある。本人の姿勢保持 や介護者の介護のしやすさを中心に、広さや高さの調整を行う。
C5A
C5B
上司を利用する身の回りの動作が可能となってくるが、介護に頼る場面も多く、大幅に介護を受けるプランで計画することになる。扉は自力でも開閉できる工夫をし、屋内は段差を少なくなることが好ましい。車椅子対応洗面台の設置も有効である。座位による排便動作や入浴動作において介助を受けながら実施するための環境整備(高床環境やシャワーキャリー)も視野に入れる。排尿動作では、尿を処理する汚物流しなどの設備も本人が使用しやすいように整備する。
C6A 排便や入浴などの動作を獲得すれば、環境設定にて家屋内の自立が可能なレベルである。自立には境界の機能レベルであるため、体調不良等により介護も必要となることも考えられ、介護も想定内に入れたプランになる場合が多い。出入口等は自力で開閉できる工夫を行う。スロープの使用も傾斜角度の配慮を行えば使用可能なレベルである。
C6B1 高床式トイレ・高床式浴室などの環境整備を行えば、ADL動作はほぼ自力で可能。そのためのスペース確保や細部の調整に関しては注意が必要である。家具へのアプローチでは、スロープの勾配角度が緩ければ自走で使用可能である。
C6B2 高床式トイレ・高床式浴室などの環境整備を行えば、ADL動作はほぼ自力で可能。若干の環境の変化にも、応用的に対応可能になってくる。家屋へのアプローチでは、スロープの勾配が1/15程度であっても使用可能になってくる。
C6B3 高床式トイレ・高床式浴室があれば、安全に動作が可能。また、応用動作として、高床式でなくとも排便や入浴動作が可能になってくることもある。家屋へのアプローチはC6B2に準ずる。車椅子操作も多少の段差はクリア可能となってくる。
C7~ 洋式便器での排便動作も可能となってくる。併せて入浴動作は浴室台や洗い場への安全なアプローチができれば、応用的に動作が可能となってくるため、それぞれ、大幅な改修を行う必要性は低くなってくる。家屋内へのアプローチは、スロープの乗降の勾配の対応が多少急であっても対応が可能になってくる。
(引用:別府重度障害者センター作業療法部門."頚髄損傷者の住まいの工夫改訂第2版".別府重度障害者センター.2021.http://www.rehab.go.jp/beppu/home/pdf/08.pdf.p5)

福祉用具

日常生活の自立をサポートするための用具を福祉用具といいます。代表的なものに、車いすやリフトや電動ベッド、マットレス、車いす用スロープ、段差解消機などがあります。頚髄損傷者が高床式トイレや浴室で使用する便座やクッション、直角移乗で使用するトランスファーボード、またエアコンといったものも、自治体によっては福祉用具として公的支援の対象となっていることがあります。
福祉用具の購入や住宅改修にあたって公的な助成制度を利用する場合は、各市区町村ごとに異なるので、資格や対象となる品目や申請方法などを事前に確認する必要があります。

福祉用具:リフト・段差解消機・スロープ・車いす・電動ベッド・トランスファーボード

福祉用具:リフト・段差解消機・スロープ・車いす・電動ベッド・トランスファーボード

車いす

車いすは損傷レベルや残存機能、体の大きさ、またライフスタイルによっても選択肢が異なってきます。
車いすには大きく分けて電動車いすと手動車いすとがあります。電動車いすは、充電式の電池を搭載しモーターを動力として駆動します。手でスティックコントローラーを操作して駆動するものが一般的ですが、その他にも、上肢の動かないC4損傷以上でも操作が可能なチン(顎)コントローラーを搭載したものや、リクライニング機能を有したもの、モーターを補助的に利用する簡易電動タイプのものなどがあります。電動車いすは手動式に比して重く、価格も高くなります。一方で、手動車いすは安価なものから、より軽量で操作性に優れた高価なものまで様々な選択肢があります。
自身にあった車いすを選択するのは当然ですが、その後のメンテナンスなども考慮すると販売店や代理店、レンタル事業者といった窓口となる業者選びも重要になります。自身で探すのであれば、メーカーのウェブサイトに代理店が掲載されていることがあるので、参考になります。
また車いすで使用するクッションも、座位の安定や褥瘡予防の観点からも重要です。エアー、ゲル、ウレタンなどの種類がありますが、できれば試用した上でかならず専用のものを使用します。

車いすのパーツ別名称 車いすのパーツ別名称

車いすのパーツ別名称 車いすのパーツ別名称

特殊寝台(電動ベッド)

電動ベッドはモーターの数によって、3モーター、2モーター、1モーターに分けられ、モーターの数が多いほど多機能で、より高価になります。製品によってそれぞれ機能は異なりますが、一般に3モーターのベッドは背上げと脚上げと高さの調整が個別にでき、2モーターは背上げと高さ調整が個別にでき、背上げと連動して脚上げができます。1モーターは高さ調整ができず、背上げと連動して脚上げが可能です。
ベッドの大きさは数種類ありますが、使用するマットレスに合ったサイズを選びます。電動ベッドは重いので、オプションでキャスターをつけると動かす際に便利です。車いすとの移乗にベッドに固定するタイプのトランスファーボードを使用するのであれば、使用可能かメーカーに確認する必要があります。
マットレスは褥瘡予防の観点から重要ですので、試用した上で自身に合うものを選びます。その他のオプションとしては、転落防止のためにサイドレール(ベッド柵)も必要です。

電動ベッド:3モーター・2モーター・1モーター

電動ベッド:3モーター・2モーター・1モーター

参考文献

6.統計
TОP
4.排便